Story

アンバーグリスジャパン
始まりの物語

目に見えない世界の贈り物から、豊かな循環が生まれていきます。

アンバーグリスジャパンがどのように始まったのか。発起人の一人・吉田恭隆の語りとともに、始まりの物語を記します。

最初の出会い——「よくわかんないな」から始まった

始まりは2015年頃。吉田は当時、植物の香りを非加熱で抽出する工房・バリバリーで、250種類ほどの素材を抽出する実験を重ねていました。その中に、お香屋さんから購入した龍涎香がありました。

すごく貴重な香料で、えも言われぬ香りがしてみんな大好きな香りで、でもマッコウクジラさんがいなくなってしまって、捕鯨でいなくなってしまったので、ほとんど手に入れられなくなった幻の香りなんですよ、ということを聞いていて、びっくりしたんでそれを作ってみたっていうところなんですよね。

バリバリー工房の棚に並ぶ100本以上の浸漬瓶
工房の棚に並ぶ浸漬瓶

忘れもしない、10年ぐらい前(…)ジャンパーのこの左袖のところにね、シュシュってかけて香ってみた思い出があります。その頃は抽出技術が僕の中で(…)あんまりだったので、それはなんかあんまりいい香りじゃなかったんですよね。なんかよくわかんないなぁと思って、それで1年ぐらい寝かしていたっていうのが、その最初の出会いになりますね。

今だとわかるんですけど、その頃はまだ1年とかね、熟成とかもさせなかったので。やっぱりまず第一段階、1年熟成させる。1年、3年と熟成させるとすごくいい香りになるってことで、ちょうどその後1年後ぐらいに龍涎香の香りを使い始めるんですけど、それがちょうどすごくいい寝かしになったかなと思っています。

再会——海に通った夏

約1年後。海や母性をテーマに香りを研究するタイミングが訪れ、龍涎香に再び向き合うことになります。

龍涎香のメタファーって僕は言い方するんですけど、龍涎香の裏に流れている物語とかイメージとかをつかむっていうために、海に3ヶ月くらいなのかな、夏の期間ね、車で走っていって、それで海辺の喫茶店でぼーっとしていろいろ見たりとか、海に足付けて見たりとか、そういう風に海のイメージをいろいろ受け取るということをやりながら、龍涎香の調香もいろいろしてみて。

夕暮れの海岸と水平線

できた香りを、今は顧問となっている先生のもとへ見せに行きます。

その中で先生が「目に見えない世界からエネルギーが送られてくる感覚だね、これは」みたいな、そんな感じの話とかされて(…)水平線があるとやっぱり自分の中で体感で、街中にいるときと当たり前ですけど、水平線の前にいるときは全然体感とか感覚、あと音の感覚とかも全然違いますよね。

龍涎香自体も、目に見えない水平線の果てからね、浮かんでやってくるものなんだなというのを、なるほどなぁって感じながら、調香もしていたという感じなんですよね。

「植物だけで作っている場合じゃない」

海に通いながら作った香りのひとつが、転機になりました。5回重ねで漬け込んだ非加熱のローズとバニラに、龍涎香を合わせた香りです。

作っててすごくだんだんいい香りだなっていうのがわかってきて(…)龍涎香を入れて作ってみたときに、めっちゃいい香りだったんですよね。これはもう全然、植物だけで作っている場合じゃないなっていう香りだったんです。

ローズも5回重ねで漬け込んだ、非加熱で抽出した香りなのでそれもすごくいい香りなんですけど、それに合わせて龍涎香を入れるとすごいことになるなぁというのがわかって。

体が弱かったおかげで、周りには療法の先生や自然派の医師がたくさんいました。見せに行くと、反応が返ってきます。

これはすごいっていう反応がとにかくいただいて。なんか脳のとある部分をすごく書き換えてくれるとか、なんかモテますよみたいなお話をいただいたりとかして。

小瓶に入った琥珀色の香り

揮発させずに使えるペンダントを作って販売すると、欲しいという人が続きました。一方で、原料は指先に乗るほどの小瓶ひとつで、決して安くない値段。このまま買い続けるのか——と思っていたとき、発起人の一人となる山田海人先生のブログに、海で見つかった龍涎香は、お香屋さんで買うよりずっと手の届く値段で取引されていることが書かれていました。

これが手に入れられたら、もっともっとたくさん作れて、もっともっといろんな人にお分けできるぞと思って。

もうひとつの根拠がありました。商業捕鯨が禁止されてから長い時間が経ち、マッコウクジラの数は回復傾向にある——ということは。

捕鯨を禁止してるからどんどん増えてるのは確かだなぁと思って(…)これは龍涎香がまた日本で拾える時期になってくるってことだなぁと思って。それは面白いと思って、龍涎香を日本で拾いませんかみたいなことをブログに書き始めたっていうのが、2016年の初めぐらいなんですかね。

おじさん4人衆

ブログでの呼びかけに、全国から同じ志の人が集まってきます。企業の戦略を担当する方。ビーチコーミングを続けて「これが本物ではないか」というものを見つけた方。そして、当時龍涎香のブログを書いていた第一人者、サイエンスライターの山田海人先生。おじさん4人でした。

みんな集まってっていう感じじゃなくて、それぞれやり取りする中で、なんかそういう場所をやりたいですよねみたいな感じでスタートいたしました。

本当に最初始めた頃は、全く龍涎香という本物を見た人がまだ誰もいないという状況だったので。山田海人先生だけは龍涎香の欠片を1個持ってらっしゃったので、でもそれ以外は全く資料がなくて、龍涎香というのはどういうものかなと思いながら、関係各所の人のところに行ったりとかしながら、香りを確かめたりしていったというのが始まりになります。

偽物ラッシュ

2017年、鑑定と買取のサービスが始まります。すると「見つけました」という連絡が、次々に届くようになりました。

設立準備の頃から、「龍涎香かもしれない」と全国から多くの包みが送られてきました。その頃の封筒には、まだ「アンバーグリスジャパン設立準備委員会」と記されています。写真に残るのは、届いたもののほんの一部です。

私見つけましたって人が、月に10件以上連絡が来るんですよね。(…)蝋の塊とか、明らかに臭くて変なものとか、そういうものがすごく送られてきて。私も体が強いわけじゃないので、すごく体力が削られて大変だったんですけど。

問答してもしょうがないので、「違うと思います。でもあなたはそうだと思うんですね」っていう感じで進めていくって感じなんですけど。

本物第1号

月10件以上、結局1年ちょっとで200件近く。鑑定を重ねた末に、その連絡は来ました。

写真の段階で、なんかこれ本物っぽいなってなって。山田先生とかも、これは本物じゃんってなってたんですけど。それが年始の1月3日ぐらいに届いて、それでアンバーグリスジャパンメンバーでZoomでつなぎながらね、龍涎香を私がホットワイヤーテストして鑑定して、これ本物だねってなったっていうことが、龍涎香第1号の発見のエピソードになります。

この第1号はね、沖縄でアマチュア無線をやってらっしゃる方が、北海道まで電波を飛ばすので海岸に出て(…)その中で、なんか変な石があるぞって言って見つけたのが、龍涎香だったという感じなんですよね。

本物第1号の龍涎香
本物第1号の龍涎香

山田海人先生はこれを「戦後見つかった中で初めての龍涎香」と評しました。しかし、本物だとわかっただけでは、社会には通用しませんでした。

新聞社さんとかに本物見つかりましたって言ってもですね、どこで本物ってわかるんですかみたいに言われて。いや、香りがなんとなく本物ですとか、そういうこと言っても伝わらないので、これはダメなんだと思って。

そこで、三つの確認を重ねました。友人の歯科医のCTスキャンで中を見て、イカのくちばしが入っているかを確かめる。本物の龍涎香を使ったことがあり、使い方も知っている調香師に香りを嗅いでもらう。そして、当時の第一人者・山田海人先生とともに確認する。

その上で、これが本物だということを、アンバーグリスジャパンとして、ちゃんと打ち出したっていうことがきっかけになります。それが第1号の鑑定でしたね。

その後——数字で見る現在

これまでに、日本国内で9件の発見に関わり、2023年には沖縄で見つかった268g(442万円相当)の龍涎香を鑑定しました。持ち込まれるもののうち本物は、かつては約1%。最近は約5%に増えています。

沖縄で見つかった268gの龍涎香
沖縄で見つかった268gの龍涎香

無償化のこと

2025年11月、奄美大島への龍涎香の寄贈をきっかけに、2025年12月から鑑定は無料になりました(対象は日本国内で発見されたものです)。

奄美大島に古くから伝わる、水平線の先にある神様の国「ネリヤカナヤ」から届けられた贈り物を「みんなで受け取っていく文化」に倣い、日本での龍涎香発見やビーチクリーニング活動への貢献へとつながれば、という想いのもと、開始いたします。

奄美市長との対談の様子
奄美市長との対談

活動の指針

アンバーグリスジャパン発起人の一人、海洋学者の故・山田海人先生の言葉「深海のことはまだわからないことが多い、龍涎香はそんな神秘を感じさせてくれる存在です。ぜひそれを伝えていってください。」という言葉が心に残り、活動の指針となっています。

海面